キツネ託した人との思いとは?

 皆さん、お元気ですか。山は新緑で覆われ、檜原の山里は、いま動物達にとって子育ての真っ最中です。先日ですがスクーターを運転していた友人が、飛び出して来たタヌキをよけようとして転倒し大けがで入院してしまいました。この時期、動物との思いもかけない遭遇がありますから気をつけて運転してください。今日は、私がよく訪ねる岩手県二戸市で聞いた、キツネにまつわる心温まるお話をしたいと思います。岩手県と青森県の県境に位置する二戸市は、かの民俗学者の柳田邦男も「もしかしたらここが日本の文化のふるさとかも?」と思ったほどの歴史や様々な伝統が今なお、生き生きと継承されています。その一つにキツネに託した伝承の物語がまだ残っているのです。
 ここでは、「やってはいけないこと」や「恥ずかしいこと」、あるいは「自分の弱みを悟られたくないこと」、「自分の住んでいる地域をこんな素敵な場所にしたい」、「子供がもっと勉強できるような環境を作ってやりたいといった夢」などを、狐にだまされたことにして伝えていくという、ほのぼのとした、ちょっと怖い、何となく人の暖かさを感じる素敵な言い伝えがまことしやかに残っているのです。以前、地域伝承に詳しい方々に集まっていただき、いわれのある場所や地域に伝わることなど、で何かないかと尋ねましたら、何と、お話がいっぱい出て来たのです。

▽二戸のキツネ物語
◎『酔っぱらったら狐のせい?』
 「金田一の船越山の地域の話です。狐や狸に出会うのはたいてい夕暮れ時です。家に帰ろうと自転車を押して歩いていたそうです。ところが向こうから急に車が来たので避けたよけたのですが、その拍子に誤まって斜面を降りてしまったのです。でもそこからはどうやっても元の道に戻れない。はっ!と気づいたらぐるぐると同じところを回っていたのだそうです。こういうのを狐に化がされた!というのですが、--------。」と、にっこおり笑ってお話ししてくださったのですが、最後に「じつは、この話しは酔っぱらって家路がわからなくなったり、道に迷ったりした時にそんな醜態を知られるのが恥ずかしくて、狐のせいにしてるんですよ。」と解説してくださいました。その狐には「まがちゃままんこ」と名付けていたそうです。

◎『息が切れたら狐のせい!』----わたしゃ、まだ年取ってない!----
 金田一の丘の上にトトメギトラコという一匹の美人雌狐が住んでいたそうです。いつも男たちがだまされたそうです。ある時、おじいさんが畑を耕しに行ったときのことです。ふと気がつくと、もう月が見えるくらい暗くなっていたそうで、そろそろ帰ろうと鍬を担ぎ丘の上を目指して歩き始めたときです。大きなお月様をバックに美しい娘が、「おいで、おいで」と手を振りながら呼んでいるんだそうです。おじいさんは突然心がととめき(ときめく)、いそいで坂を駆け上がりました。するとどうでしょう。その場所には美しい娘の姿は消えてないのです。おじいさんは、わ!騙されたと、息を切らして家の戻り、晩ご飯の用意をしていたばあさんに、ハアーハアーしながら「ばあさん、トトメギトラコに騙されてしもうた」と話したそうです。おばあさんは、にっこり笑って「それは大変でしたね。騙されないように体を気をつけてくださいよ」と答えたそうです。

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 「これって先生方、何の話しをしているかわかりますか。」と言われて、この話しの本当の意味をお聞きして笑ってしまいました。それはだんだん歳を取ってきて畑作業がきつくなってきたおじいさん。遅くまで作業をして坂を登って帰ると息が切れるようになってしまっている。そんな自分が歳を取ってきたことをおばあさんに悟られまいと、トトメギトラコのせいにして体力の衰えを隠そうとする。それを密かに悟っているおばあさんが、受け流して「無理をしないように」と受け答えする、人への思いやりや優しさを狐に託して後世に伝えているのだそうです。「トトメギ」とは、ここにくると心がととめく(ときめく)ことを意味するんだそうです。

◎『狐の仕返し』
  明治24年に開通した東北本線の運転手にも騙された話しが残っています。当時は蒸気機関車でしたが、機関士が時折悪戯して狐に石炭をぶつけていたそうです。ある時、夜道を走る機関車の行く手に突如煌々と光る別の機関車が向こうからやってくるではないですか。線路は一本。急ブレーキをかけて一寸前で停まったが、気づいたら何もいないのです。これは悪戯を受けたトトメギトラコ、マガチャママンコ、イワダテトラコの3匹がしかけた"復讐"だったそうです。

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  暗い夜道を人はそそくさと家路を急ぎ、闇夜は動物たちのものだった。二戸の夜は今もちゃんと暗い。狐に化かされたのは昔話と言い切れるでしょうか?
  二戸の狐の話しは、ちょっとイソップ物語風の風刺も交えた、それでいてほんのりと人間味のある暖かさを感じるものが多く、二戸の人々の人柄が見えてくる気がします。
  狐は川を境界として縄張りを持っていたそうです。夕暮れ時は夜行性の狐が行動を開始する時間帯。餌を探すルートと人の移動路が重なって多くの人が同じ狐に出会い、あの人も会った、自分も会ったという経験と、自分のエピソードや次世代に伝えたいメッセージを重ねて狐の物語にして次世代へと継承されていくのですね。
  いちどキツネに会いに二戸市にお出でになりませんか。そして夜遅くそっと散歩をしてみませんか。名物キツネ達に合えるかもしれませんよ。優しく皆さんのおいでをお待ちしています。

2016年5月25日 20:30 | | コメントを読む (0) | コメントを書く


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